高校化学の平衡状態に不活化ガスを入れた場合のハナシとは、

具体的には次の[例題]のようなハナシです。結構よくみるネタかと思います。


[例題]

C2H4(気)+H2(気)→←C2H6(気)+137kJの可逆反応が平衡状態に達している。
この平衡状態に対して、次の操作(1),(2)を行うと、
平衡はどちらに移動するか。

「左へ移動する。」、「右へ移動する。」、「移動しない。」のいずれかで答えよ。

ただし、同じものを繰り返し答えてもよい。

(1)温度と圧力を一定に保ち、窒素N2を加える。
(2)温度と容器の体積を一定に保ち、窒素N2を加える。

 

[答え] (1)左へ移動する。 (2)移動しない。


[解説]

ポイントは、平衡に関与している物質(C2H4,H2,C2H6)の圧力・濃度が変化するか否かです。

(1)はピストン付き容器、(2)は体積一定のふつうの容器で実験していると考えて下さい。

(1)
温度と全圧を一定でN2を加えると、全圧一定でN2の分圧が加わるのだから、

気体の体積を大きくしなければならず、C2H4,H2,C2H6の分圧・濃度は低下します。
すると、平衡に関与している気体粒子数が増加する方向へ、
つまり、C2H4(気)+H2(気)⇔C2H6(気)の平衡は左へ移動します。


(2)一言でいうと、「気体が運動している空間」が気体の体積であり、
これが変化しないのですから、C2H4,H2,C2H6の圧力・濃度は変化しません。
確かに、(1)と違い、全圧一定ではないので、N2の分圧が加わることで、全圧は増加します。

しかし、全圧一定ではないので、(1)と異なり、C2H4,H2,C2H6の圧力・濃度には
一切影響がないですから、平衡は移動しません。
ルシャトリエの原理により 平衡に関与している物質の圧力・濃度が変化すると、

その変化を打ち消す方向へ平衡が移動します。
しかし、N2はC2H4(気)+H2(気)=C2H6(気)の平衡に無縁ですから、
N2の濃度・圧力が増加したところで体積一定では
C2H4(気)+H2(気)=C2H6(気)の平衡は移動しないのです
((1)では全圧一定という条件だったので、
N2を加えたことで平衡に関与している物質(C2H4,H2,C2H6)の
圧力・濃度が間接的に変化したため平衡の移動が起こりました)。


この両者の違いは よく出題されるのでしっかり理解しておくべきでしょう。


※ルシャトリエの原理(平衡移動の原理)とは、ある可逆反応が平衡状態にあるとき、

外部条件(濃度・圧力・ 温度)を変えると、その変化をやわらげる方向に平衡が移動し、

新たな平衡状態となるという原理のことです。

要は、「暑くなったから、クーラーをつけよう。」みたいに動くのと同じようなイメージですね。


※ハーバー・ボッシュ法(アンモニアの工業的製法)の反応条件の設定には、

ルシャトリエの原理が考慮されています
(厳密には化学平衡だけでなく、反応速度や設備面(耐久度・コスト)も

考慮して反応条件が決められています)。

N2(気) +3H2(気) →←2NH3(気) (+92kJ)
化学平衡を考えると、平衡が右に移動し 

アンモニアの生成率が高まる高圧・低温が良いですが、

あまりに高圧だと設備面に問題が生じ、また、低温だと反応速度が小さくなり 

平衡に達するまでに時間がかかります。
そこで、4.0×10^7Pa程度の高圧条件下、温度を中程度の約500℃とし、

触媒を利用しています。

なお、生成したアンモニアは冷却して液体として取り出します

(これによって平衡は右に移動します)。
アンモニアは、アンモニアソーダ法による炭酸ナトリウムの製造の原料のほかに、

火薬などの原料にもなります。

また、ハーバー・ボッシュ法は「空気からパンと火薬を作る方法」と言われ、

食糧問題の解決に大きく貢献したことでも知られています。

高校化学のアンモニアソーダ法(ソルベー法)の化学反応...

高校化学のオストワルト法の化学反応式まとめ


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以下に練習問題を用意しました。
解いてみてください。理解度をはかる試金石になると思います。

平衡状態に不活化ガスを入れた場合のハナシと関係ない問題も

何問か混じっていますが、それらも平衡の移動に関する問題で結構有名なネタです。

なお、これもよく問われることなのですが、

触媒を加えると、正・逆いずれの反応速度も大きくなって、
平衡に達するまでの時間は短縮されますが、平衡状態での各物質の濃度は変化しないので、

平衡は移動しません(当然平衡定数も変化しないということになります)。

[問題1]

N2+3H2→←2NH3+92kJの可逆反応が平衡状態に達している。
この平衡状態に対して、次の操作(1),(2)を行った際の

アンモニアの物質量変化として正しいものを、

以下のア~ウのうちから、それぞれ1つずつ選べ。

ただし、同じものを繰り返し選んでもよい。

(1)体積を一定に保ちながら、アルゴンを加える。
(2)圧力を一定に保ちながら、アルゴンを加える。

ア 増加する。
イ 変化しない。
ウ 減少する。


[答え] (1)イ (2)ウ


[問題2]

無色の気体N2O4と赤褐色の気体NO2が次のような平衡状態になっている。
以下の問いに答えよ(α,βは係数を表す)。
αN2O4→←βNO2+QkJ
(1)この混合気体の圧力を増したら色が薄くなった。
αとβはどちらが大きいか。
(2)この混合気体の温度を高くしたら色が濃くなった。
Qは正の値、負の値のどちらか。

 

[答え] (1)β (2)負の値


[解説]
(1)圧力を加えると、気体分子の総数が減少する方向へ平衡が移動します。
出題者の意図には反するでしょうが、当然、係数合わせをしても明らかです。
(2)温度を高くすると、吸熱反応が起こる方向へ平衡が移動します。
実際、N2O4(気) =2NO2(気) -57kJという吸熱反応です。


[問題3]

無色の四酸化二窒素N2O4と赤褐色の二酸化窒素NO2が平衡状態にある混合気体を

注射器に入れて圧縮した。
次の①~④のうち、側方から観察した場合にみられる変化として

最も適切なものを1つ選べ。
ただし、この平衡はN2O4←→2NO2で表される。
①圧縮した直後から赤褐色が濃くなる。
②圧縮した直後から赤褐色がうすくなる。
③圧縮した直後は赤褐色が濃くなり、その後、赤褐色はうすくなる。
④圧縮した直後は赤褐色がうすくなり、その後、赤褐色は濃くなる。


[答え] ③


[解説]

これも結構有名なネタです。2015年の岡山大でもこのネタが出ていました。

ピストンを押す(圧力を加える)と
瞬間的に濃縮されて(NO2の濃度が高くなって)、
シリンダーの横から見ると 赤褐色が濃くなります。
その後、しばらくすると気体分子の総数が減少する方向
(この場合 無色の四酸化二窒素が生成する方向)へ平衡が移動して
赤褐色が薄くなります。
ピストンを押してから平衡移動が完了するまでに
しばらくタイムラグがあるってことです。

なお、シリンダーの底から見ると、 シリンダーの横からだと観察できた

直後の赤褐色が濃くなる変化が見られません

(シリンダーの底から見ると、瞬間的に濃縮されることによる影響と、

ピストンが近づいてくることで薄く見えるようになる効果が

打ち消されるためと考えられます)。

しばらくすると気体分子の総数が減少する方向
(この場合 無色の四酸化二窒素が生成する方向)へ平衡が移動して
赤褐色が薄くなります。


[問題4]

C(黒鉛)+CO2(気)→←2CO(気)の可逆反応が平衡状態に達している。
この平衡状態に対して、次の操作(1),(2)を行うと、
平衡はどちらに移動するか。

「左へ移動する。」、「右へ移動する。」、「移動しない。」のいずれかで答えよ。

ただし、同じものを繰り返し答えてもよい。

(1)圧力を上げる。
(2)黒鉛の量を増やす。

 

[答え] (1)左へ移動する。 (2)移動しない。


[解説]

これも結構有名なネタです。

固体の濃度[mol/L]というのは、粒子の詰まり方、つまり、

要は密度みたいなものですから、どんな結晶構造をとるかなどで決まってくるので、

多少の温度や圧力、固体の量の変化では変化しないと高校化学では考えて良いです。

よって、固体の濃度は、薄い水溶液の[H2O]と同様、ほぼ一定とみなせます。

このような固体の関与する平衡では、平衡が移動するかどうかは

気体成分だけをみて判断すれば良いわけです。

なお、溶解度積Kspのところでも、

固体の濃度[mol/L]を一定とみなすという考え方が出てきます。

高校化学の溶解度積について


[問題5]

C(固)+H2O(気)=CO(気)+H2(気)-141kJの可逆反応が平衡状態に達している。
この平衡状態に対して、次の操作(1),(2)を行うと、
平衡はどちらに移動するか。

「左へ移動する。」、「右へ移動する。」、「移動しない。」のいずれかで答えよ。

ただし、同じものを繰り返し答えてもよい。

(1)温度と圧力を一定にしたまま、アルゴンを加える。
(2)炭素の粉末1gを加える。


[答え] (1)右へ移動する。 (2)移動しない。


[問題6]
次の可逆反応が平衡状態にあるとき、

(  )内の条件変化で平衡はどちらに移動するか。

右、左、移動しないのいずれかで答えよ。
①H2S + 2H2O ⇔ 2H3O^+ + S^2- (温度を上げる)
②H2S + 2H2O ⇔ 2H3O^+ + S^2- (NH3を加える)
③H2S + 2H2O ⇔ 2H3O^+ + S^2- (AgNO3aqを加える)


[答え]①左 ②右 ③右


[問題7]

次のA~Dの気体又は蒸気の可逆反応で、
温度が一定で、圧力を上げた場合、
平衡が右に移動するもののすべてを挙げているものはどれか。
①~⑤のうちから、最も適当なものを1つ選べ。
A. 2NO2 ⇔ N2O4
B.H2 + I2 ⇔ 2HI
C.N2 + 3H2 ⇔ 2NH3
D.2SO2 + O2 ⇔ 2SO3

①A,B
②A,C,D
③B,C,D
④B,D
⑤C,D


[答え] ②


[問題8]

次の化学反応式の平衡を左から右に移動させて、
生成物Cを最も効率よく得るために適切なものはどれか。
①~⑤のうちから1つ選べ。
A+2B⇔2C+2D-QkJ(Q>0)
①温度を下げる。
②圧力を上げる。
③Aの量を減らす。
④Bの量を減らす。
⑤Dを生成系外に取り出す。


[答え] ⑤


[問題9]

A(気)+B(気)→←2C(気)のある温度での平衡定数は4である。
この温度で一定体積の容器内にA 2mol、B 2mol、C 2molを混合して放置すると、

反応は左右どちらに進行するか。


 [答え]右


[解説]

同じ可逆反応で、同じ温度ならば、平衡定数Kの値は同じになります。
よって、平衡状態に向かって反応が進行するとき、
どちらへ向かっているかは、
そのときの濃度を代入した値(K仮とします)の大きさが
平衡定数Kと比べてどうであるかによって判断できます。
つまり、K仮の値が平衡定数Kよりも小さければ
反応はK仮が大きくなってKと一致するように右向きに進行し、
K仮の値が平衡定数Kよりも大きければ
反応はK仮が小さくなってKと一致するように左向きに進行する
と分かるということです。


[問題10]

可逆反応の化学平衡に関する記述として、次のうち誤っているものはどれか。1つ選べ。
(1)平衡状態とは、正反応と逆反応の速度が同程度で、

見かけ上反応が停止している状態をいう。
(2)温度を高くすると、吸熱の方向に反応が進み、新しい平衡状態になる。
(3)触媒を加えると、反応速度は変化するが、平衡は移動しない。
(4)圧力を大きくすると、気体の総分子数が増加し、新しい平衡状態になる。
(5)ある物質の濃度を増加すると、その物質の反応は減少するように反応し、

新しい平衡状態になる。


[答え](4)


[問題11]

次の化学反応は可逆反応である。この反応が平衡状態にあるとき、

平衡を右に移動させる操作として最も適当なものを、下の①~⑤のうちから一つ選べ。

C(黒鉛)+CO2=2CO-172kJ
①温度一定で圧力を低くする。
②圧力一定で温度を下げる。
③温度・圧力一定で触媒を加える。
④温度・体積一定でアルゴンを加える。
⑤温度・体積一定で一酸化炭素を加える。

[答え] ①


[問題12]

化学反応に対する触媒の作用について、次の記述①~⑤のうちから、

正しいものを1つ選べ。
①触媒の作用をもつものはすべて固体である。
②触媒の作用により反応熱が大きくなる。
③触媒の作用により反応の経路が変わる。
④触媒の作用により正反応の速さは増すが、逆反応の速さは変わら ない。
⑤化学平衡の状態になったところに触媒を加えると、平衡が移動し 生成物の量が増す。


[答え] ③ 


[問題13]

CO2(気)+2H2O(気)⇔CH4(気)+2O2(気)が平衡状態にあるとき、

温度を上げると右へ平衡が移動する。

このことは正反応が次のA~Dのうちのどれであることを示すか。

最も適当なものを1つ選べ。
A:吸熱反応 B:可逆反応 C:反応速度の大きな反応 D:不可逆反応


[答え] A